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IF林

 

背の高い細身の男性が陽炎の向こう側に佇んでいた。
癖のない赤茶色の短い髪と、清潔そうなシャツを着ていた。ただ、こんな暑い日なのに彼は長袖だった。だくだくと汗を流しながらもそれを拭うこともせず、男性はただそこにいた。
喧しい蝉の鳴き声がどこか遠くに感じた。音など気にならないほど男性に注視してしまった。
視線に気づいたのか、男性がこちらを向いた。
顔立ちは美醜というものを当てはめるまでもない、有り体に言ってしまえばあまりにも平凡だった。だが、その目の下に深く刻まれた濃い色の隈と、奇妙なまでに透明さを感じる赤茶色の瞳が、ひどく印象的だった。

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